ご挨拶
この度5年の期間、オーケストラ・ニッポニカのミュージック・アドヴァイザーをつとめることとなりました。今まで、設立演奏会を始めとして大変ご縁が深かったこのオーケストラからこのお話しをいただけたことは、大変光栄であり、日頃からとても興味を持って眺めていた特徴あるこのオーケストラの活動に、さらに積極的にかかわれることとなったことは、嬉しいことです。
日本の作曲家は、西洋の音楽を摂取しようとして以来、言わば二重の歴史を背負うこととなりました。西洋の行き方を下敷きにしながらどうしたら日本人としてのアイデンティティーを出すことができるのか、ということですが、これは多種多様なあらわれ方をしてきました。わたしは一日本人作曲家としてこの問題に大変興味のあるところですが、皆さんとともにもう一度この問題を一緒にたどり、日本人作曲家の演奏に、それがさらにそのモデルとなった西洋音楽の演奏に、それからアジアの音楽の演奏に活かして行きたいと考えています。そしてそれを一緒に考えてもらえるのは、日本ではオーケストラ・ニッポニカしかいないと確信しています。 このオーケストラのメンバーは、音楽をどのように演奏するのか納得しないと良い演奏になりません。プロのオーケストラもこのことは同じはずですが、指揮者の意図に一応納得しなくてもある水準の音楽を維持することができます。しかしこのオーケストラは違うのです。フレーズをどのように演奏するのかがわかって初めて、確信を持った演奏となります。指揮者にとってはとてもチャレンジで、作品の根本のところからきちんと理解して行くことがいつになく求められます。 オーケストラ・ニッポニカは2002年の設立からすでに14年の月日が経過しています。それ以前から活躍しているメンバーもいらっしゃいます。彼らが日本人の作曲家をレパートリーとして定着させたことは事実だとしても、これからそれをさらに深めて行くこと、さらに広いレパートリーを獲得することも求められているように思えます。これから5年間、密着した活動をともにできることで、上記のさまざまな問題に向かって行き、さらに日本の音楽の展望を開いて行きたい、そう切に願っています。
野平 一郎
2016年7月10日 オーケストラ・ニッポニカ第29回演奏会プログラム冊子より転載 |