湯浅譲二先生のこと
去る7月21日に湯浅譲二先生が逝去されました。享年94歳。昨年の夏に初演された作品≪哀歌(エレ ジィ)≫及び≪オーケストラのための「軌跡」≫を聴いた方々は誰もが、その音楽が美しいこと、精緻で あることに感動したと思います。
 オーケストラ・ニッポニカは、設立2年目の2004年に、湯浅先生を実行委員長として「日中友好合作 現代音楽祭 〜古楽同源・新楽共創〜」を開催しました。音楽祭は、演奏会と講演会を併せて6日間に渡 り、東京と北京で行われました。この音楽祭は、湯浅先生の親友でありニッポニカの設立を支援して下 さった、作曲家・石井眞木さんが逝去される前に、ニッポニカに託した企画でした。当音楽祭に湯浅先 生が寄せてくださったメッセージ全文を以下に掲載いたします。

アメリカで石井眞木君の訃報を聞いた時は信じられなかった。言葉が出なかった。彼とのつき合いを思 い起こすと涙が止まらなくなった。それに今だに彼がそこにいて僕に話しかけてくるような不思議な感 覚が続いている。
 石井眞木君がこの「日中友好合作現代音楽祭」企画を立案し、1997年に第1回の演奏会を大成功に導 き、そして7年後になる今回、東京と北京において6日間7演目という巨大なこの企画原案を激しい痛み に耐えながら細部まで詰め、託していたと聞いた。
 日中独の作曲家の作品を演奏するのは、素晴らしいソリスト、演奏家に加え、指揮はオーケストラ・ ニッポニカの音楽監督を務める本名徹次君である。無念を超え、国境を越えて〜古楽同源・新楽共創〜 にふさわしい音楽の無限の悦びを共感しあえる企画になることを心から願う。
 振り返ってみれば、僕も、創造性・オリジナリティに富んだ中国の優秀な音楽家と沢山出会ってきた 。そしてお互いに刺激し合ってきた。それは僕にとっても貴重な経験になっている。微力ながらこの企 画を実現する上でお役に立てればと思う。改めてこのような機会を与えてもらったことに感謝したい。  石井眞木君もきっと喜んでくれていると思う。
2003年12月12日 日中友好合作現代音楽祭 実行委員長 湯浅 譲二

 音楽祭は成功裏に終わり、その後のニッポニカは、音楽祭で出会った作曲家や演奏家の方々と様々な 形で共演を果たすことになりました。
 ニッポニカは2017年に、湯浅先生の生涯の友であった秋山邦晴さんへ捧げる演奏会「コラージュ・秋 山邦晴」を企画しました。湯浅先生と親密な関係にあった早坂文雄、武満徹の作品とともに≪ピアノ・ コンチェルティーノ≫(独奏/長尾洋史)を、湯浅先生ご臨席のもとで演奏することができました。リハ ーサル中に指揮者の野平一郎さんが「まるでスペクトラム楽派のような音がするね」とおっしゃり感嘆 されていた姿も忘れられません。
 ニッポニカの活動を見守って下さった湯浅先生には、お力添えを頂くばかりでした。心からご冥福を お祈り致します。