平尾貴四男ひらお きしお (1907-1953)
「第13回演奏会プログラム解説より転載」
奥平 一(オーケストラ・ニッポニカ)
作曲者27歳の時の作品。当時、平尾はパリに留学し、スコラ・カントルム及びスコラ・カントルムから分裂し新設されたエコール・セザール・フランクにおいて、G・ド・リオンクールとアルベール・ベルトランに学んでいた。フランス滞在最後の年に作曲したこの曲は、帰国後の1937年新交響楽団(現NHK交響楽団)の邦人作曲コンクールに「古代旋法による緩徐調」と改名して入選し初演された。翌年、尾高尚忠の指揮でブダペストにおいて演奏された際には、曲名は元に戻された。

  曲は自由な三部形式として構成されている。雅楽的な開始が4小節間奏された後、印象的な4度音程を伴う典雅で歌謡的なこの曲の主要テーマがあらわれて第一部が開始される。このテーマは日本的な雰囲気の主題に西欧的な和声展開の可能性を探るためなのか、工夫が凝らされていている。
日本的な5音音階(ペンタトニック・スケール)に導音のSiを加えた音階が用いられている。この主要テーマはオーケストラの各声部に対位法的に受け継がれていく。
第二部はカデンツァ的な経過部にはさまれた、いわばトリオ部である。トリオ部の主題は第一部の典雅な主題とは対照的に田舎風で素朴でリズミカルであるが、リズム構造は第一部の主題から導かれている。第三部は、第一部の自由な展開部とも言える内容であるが、その終結にはそれまで現れたことのなかった五音音階が確信的に奏された後、冒頭の雅楽的開始が回顧されて静かに終わる。

  「古代讃歌」は、尾高尚忠、斎藤秀雄、渡邉暁雄、芥川也寸志らが指揮した日本の管弦楽曲の名作であるが、今回の演奏はおそらく1986年以来、21年ぶりの再演である。
【楽器編成】Fl2、Ob2、Cl2、Fg2、Hr3、Tim、弦楽5部
【初演】1937 (昭和12) 年1月29日 日比谷公会堂 指揮:J.ローゼンストック 演奏:新交響楽団(現・NHK交響楽団)
【楽譜出典】スコア(日本近代音楽館提供) パート譜(日本近代音楽館提供)
作曲家