松平頼則まつだいら よりつね (1907-2001)
この作品は、放送初演された44年後に、芥川也寸志指揮新交響楽団により舞台初演された。その時のプログラムに掲載された作曲者自身の解説を一部引用してみたい。
『1939年にNHKでは“国民詩曲”と題する放送用の管弦楽曲のシリーズを作曲家達に委嘱していた。放送の関係上、時間の制約はあったが、形式等に関しては全く作曲家たちの自由であった。私は当時熱中していた南部地方の民謡の中から盛岡地方の子守唄を択び、それに6つの変奏曲をつけた。6つという数字には別に意味があるわけではなく、所要時間の計算が簡単になるような初等数学的思いつきに過ぎない。 中略 この作品は管弦楽としては「パストラール」の次に書いたもので、当時私が私淑していた多くの作曲家達の影響がある。
作曲家としては無調風の第三変奏曲、歌謡風の第四変奏曲が気に入っている。しかし何分自己の作風を確立するはるか以前ではある。その後も自分のスタイルらしきものを発見するまでは何度も脱皮しなければならなかった。 中略 実はこれより12年後に書かれた「ピアノと管弦楽の為の主題と変奏」(解説者注:指揮者カラヤンによって演奏された唯一の日本の管弦楽作品、ピアノはイヴォンヌ・ロリオ)とは特に変奏曲の形式の点で親近関係にある。後者は華やかな道を歩いているのに引き換え、この褐色の地味な作品は静かに眠っていた。 後略 』以上引用。(新交響楽団第99回演奏会「日本の交響作品展7 青春の作曲家たち」プログラムより)
曲の最後4小節間、松平の最初の管弦楽作品「パストラール」(1935)のモティーフが夢のように一瞬現れて終わる。
今日(※)の演奏は、25年ぶりの再演となる。
南部民謡は、武田忠一郎により採譜されて、1917(昭和6)年に「岩手民謡集(全24曲)」(東京シンフォニー楽譜出版社)が出版されてから広く知られるようになった。今日演奏される作品に用いられた子守唄は、この民謡集の第1曲目に掲載されている。ちなみに、武田は生涯に「東北民謡集全8巻」を完成させた。「岩手民謡集」はその第1巻である。
松平は、自身の言葉にもあるように南部民謡を基に多くの作品を書いていて、「南部民謡集 I (vo,pf)」(1928-30)、「南部民謡集II(vo,pf)」(1938)、「南部民謡による作品pf」(1971)などがある。
※2008年4月6日 第13回演奏会
【楽器編成】Pic、Fl2、Ob2(2nd C-Ang持替)、Cl2、Hr4、Tp3、Tb3、Tub、Piano、弦楽5部
【初演】1939(昭和14) 年12月17日 放送初演 指揮:山田和男 演奏:日本放送交響楽団
【楽譜出典】スコア(日本近代音楽館提供) パート譜(日本近代音楽館提供)
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